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カウントのポイントと手順構成

こんにちは。

突然ですが、エルムズレイカウントってすごいですよね。個人的には完璧な技法だと思っています。クロースアップマジシャンとしてはお世話になりっぱなしです。

しかし、なぜかカウントを使いたくないなっていう波が周期的に訪れます。要はオープンディスプレイとカウントの使い分けです。どうしてもオープンディスプレイの方がフェアな印象を持ってしまい、カウントは怪しいのではと思ってしまうわけです。いかにしてカウントを使わないかに苦心した時代もありました。

しかしこんなにも便利なカウントを使わずに済まそうというのももったいない話。ということで本日はカウントを使うためのポイント(言い訳とも言う)について個人的に考えたことをまとめます。おそらく創作時のヒントになるのではないかと。


その前に僕が知識として持っている、カウントに関して理論的なものを言及している資料をざっと紹介します。

・ホァン・タマリッツ 『ファイブ・ポインツ』
視線によるミスディレクションの項目で例として挙げられていたと思います。ただこれは一連の動きの一部で技法を使う際の視線の使い方についての一例なので割愛します。

・かわばたようへい 『オープンディスプレイとカウントについての考察 』
カウントとオープンディスプレイについて5W1Hに分けて考察しています。無料なので読んでいただいても良いのですが、要点だけかいつまむと、カウントは緊張時、オープンディスプレイは緩和時(緊張時も使える)で使い分けると良いといったことが書かれています。

・ムナカタヒロシ 『REFRAINS』
後輩のレクチャーノートです。カウントと観客の注意力に関するちょっとした考察がなされています。カウントによって持ち方が変わることや、同じフェイスが2回見えてしまうといった懸念に対して、観客の注意力という観点からその対策を模索しています。


これだけです。これだけなのでこれから話すこともそこまで信憑性はありません。でも僕はこの考え方でカウントを使っても良いのだと思うことができたので、同じように救われる方が一人でもいらっしゃれば本望です。


まず前提ですが、カウントは演者の手癖であると捉えてください。カウントは流麗な手つき、もしくはぞんざいな扱いで行われなければいけません。また、カウントより広げた方が早いとよく言われますがそんなことはありません。実際やってみるとわかりますが、カウントは終了時にカードがそろっていますが、広げた場合は最後にカードを閉じなければならないので、むしろカウントの方が早いまであります。演者はこの動きが手馴れているのだと観客に思わせることがカウントを使う第一歩だと僕は考えます。

ということで前提ありきの結論となりますが、カウントとオープンディスプレイの使い分けは以下の通りです。


カウント: 4枚のうち1枚が主役or4枚共主役じゃない。
オープンディスプレイ:4枚のうち全部or複数枚が主役。



ではわかりやすいものから順に解説します。


・4枚のうち1枚が主役(カウント)
これは言い換えれば「ある1枚の変化を見せたい」ということです。ツイスティングジエーセスが代表例と言えるでしょう。この場合、オープンディスプレイよりもカウントの方が1枚1枚をはっきり見せることができるので効果的であると思います。かわばた氏の言うところの緊張時がこれに当たります。

・複数枚が主役(オープンディスプレイ)
マキシツイストの3段目(3枚ひっくり返るところ)などが良い例だと思います。カウントで3枚ひっくり返ったことを示すマジックもありますが、間違いなくオープンディスプレイの方がわかりやすいです(カウントでそうするマジックを作ったことがある身としては耳が痛い)。複数枚の変化を見せたい場合はオープンディスプレイが良いでしょう。これも緊張時です。

・全部が主役(オープンディスプレイ)
これはオイルアンドウォーターの最初等が当てはまるでしょうか。4枚の赤いカードと4枚の黒いカードがありますと示す場合、オープンディスプレイが適していると思います。緩和時と言ってもよいでしょう。

・4枚共主役じゃない(カウント)
これは分かりやすく言うと、「4枚とも○○であることは自明である(あってほしい)」ときに使えます。例えば、オイルアンドウォーターで一方が4枚の黒いカードになったとき、もう一方は4枚の赤いカードであることは自明なので、カウントで済ませてよいということです。ここがかわばた氏とは考えが違うところで、カウントは緩和時でも使えると思っています。これはもちろんカウントが演者の手癖という前提があっての話です。


最後に手順を構成するヒントをいくつか。

1.即カウントに移れる流れを作る
カウントは演者の手癖ですから、ビドルグリップに持っていたカードをわざわざピンチグリップに持ち替えてカウントするといった行為はあまりよくありません。持ち替えなくてもそうなってしまう流れを作るべきです。例えば、机上に裏向きで置かれたカードを左手で拾い上げると、そのままエルムズレイカウントの態勢に入れます。このようにハンドリング構成でカウントはグッと使いやすくなります。

2.4枚共主役と4枚共主役じゃないは表裏一体
どうしてもオイルアンドウォーターの最初でカウントを使わないといけないということもあると思います。この記事を読んだあとではそれはできないのではと思われるかもしれませんが、実はできます。やるべきことは「赤いカードと黒いカードを4枚ずつ使います」と先に言ってしまうことです。赤いカードと黒いカードが4枚ずつあると聞かされて、目の前に2つのパケットがあったら観客は当然4枚ずつ分かれていると思います。そうなれば「自明(であってほしいこと)」になるのでカウントを使っても良くなります。2つのパケットを裏向きに置いておき、「こちらが赤でこちらが黒です」といった具合にどちらが問題にすり替えてしまうのも効果的だと思います。何気に1の目的も達成できています。

3.変化を見せてから全体を見せられる構成を作る
例えば5枚のカードの下2枚を表向きにしてエルムズレイカウントをしてみてください。1枚のカードが表向きで出てきます。そのまま上3枚を広げるとどうでしょう。1枚表向きのカードを隠したまま、4枚のカードのうち1枚だけが表向きの状態でオープンディスプレイすることができます。これは僕が好んで使う手法(主にホフジンサー・エース・プロブレム)で、カウントを行った後にオープンディスプレイで示すというものです。変化を見せてから全体を見せる、緊張から緩和へ移行するという言い方もできます。これができると、良い作品が作れたなという特に根拠のない自信を持てるのでおすすめです。


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テンヨー2019年新製品レビュー①

懲りもせずにTです。こないだの記事ではディーラーズ・アイテム『サプライズ手帳』だけレビューしてみたんですけど、テンヨーフェスで買ってきたのはあれだけではありません。

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(↑サプライズ手帳)



むしろこちらの方が気になってる人多いと思うのですが、2019年度テンヨー新製品はワールド・グレイテスト・シリーズも含めて6点あり、そのうちの3点が前半組として販売されました。残りの3点は1か月後ぐらいになるのかな? たぶんそちらが出たらそちらのレビューもすると思いますので、この記事は①としておきます。

ちょっと前からテンヨー新製品は発売の時期が2段階になったんですが、これは待つ楽しみが持続するのと、財布に優しいんで(と感じさせるテンヨーの策略?)僕はこの形態のほうが良いんじゃないかと思いますね。

売り場は相当混みあってて、実演はあまりきちんと見られなかったんですが、さっそく紹介していこうかなと。



①ミラクルミルクチョコレート

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開封した直後、商品の状態を目にしてすぐ「えっ、どういうこと?」と。これでなんであの現象が達成できるのかすぐには理解できなかったのですが、いじくってみて感心。
「そういうことか!」

この商品、手に入れた人が口をそろえて「テンヨーみ」という言葉を使うんですが、確かにいかにもテンヨーっぽいトリック。それもそのはずで、鈴木徹さんの作品でしたね。「あれ、そうだったんだ?」と思ったのですが、鈴木さんは現在テンヨーの副社長という立場にいらっしゃるようです。テンヨーフェスティバルでは途中で鈴木さんが挨拶に登場し、「テンヨーフェスティバルが終了するとか、テンヨーが手品事業から退くなんて噂がありますけど、嘘です」と心強い「やめへんで」宣言をしていらっしゃいました。

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さて、どうしてこんなに「テンヨーっぽい」のか考えてみたんですが、いろいろ理由はあるな、と。

1. 見た目のかわいらしさ。話が盛り上がりそう。
2. コンパクトでポケットに入るサイズ、携帯していつでも即座に見せられる。
3. おもちゃとしていじくる楽しさがある。
4. 手品としてもよく出来ていて、不思議。
5. 機構に意外性があり、精巧。

確かにこれはテンヨーみの塊ですね。

非常に似た印象を与えるトリックとして、2017年の「マジカルチョコレート」というものがあり、チョコレートがデザインされたカードのうち、観客の選んだチョコの角が欠けてしまう(移動する)という現象で、これはこれで傑作なのですが、原理から全く違います。でも、きっと鈴木さんの発想の中では何かしらの連想があってこの2作に至ったのでしょう。クリエイターってすごいな、と改めて感じたのでした。

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(↑マジカルチョコレート)

余談ですが、「ミラクルミルクチョコレート」を収めているパッケージに「No.4」の文字が刻印されていました。サイズがちょうど良かったので流用したのでしょうか、これってアレですよね。タバコをジグザグに切っちゃう例の装置。



②インスタマネー

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白い紙をお札に印刷! 僕が前もって得ていた情報だと「お札が見る見るうちに白紙に」という現象で、「えっ、何で白紙→お札じゃないの?」と戸惑い、タネにかかわる秘密があるのかな? などと想像しましたが、そんなこともなく。どっちからどっちに変化させることもできます。

変化の具合がなかなか奇妙な印象を与えます。仰々しすぎない道具で印刷が起こる。まあ、僕は割と仰々しい道具を持ち出して紙幣を印刷するといった手品も(バカらしさがいかにも手品っぽくて)好きなんですが。

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クリエイターの小宮さんは前にも「マネーショック」というものがあり、お札になるトリックに対するフェティシズムがあるのかな、と思ってちょっと調べてみたら「魔法の錬金術」も「ミリオネアドリーム」も小宮さんの考案じゃないですか。金を生む手品マニアだ。

不器用なのでちょっと扱いに難儀しています。うまく見せるにはもうちょっと訓練が要りそう。



③スマホイリュージョン

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これはJeimin氏が考案し、Silk thru Phoneというタイトルで手品界隈に流通していたものですね。目を疑うようなビジュアルな現象が気軽に起こせるものです。今どきの商品にしばしばありがちな「映像だとすごそうだけど実際にはキツくないか……?」というようなこともなく、きちんと目の前で貫通現象を起こすことができます。

今回の商品はテンヨーによる新たな工夫など、いくつかアイデアの追加された説明書&道具となっていて、これがかなり良いです。演じやすくなっている印象です。これはテンヨーみというより、テンヨークオリティというべきか。シルクも付いています。

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(↑デックは付属しません)

このトリックは元のSilk thru Phoneという名で売られていた時からかなり好きで、見た目としては今風のストリートマジックって印象なんですが、裏側は極めてシンプルでいかにも「手品」らしいとしか言いようのない発想で解決しているんですよね。この落差がめちゃくちゃ「手品だ……」って感じで好きです。伝わらない人には全然伝わらないような表現ですみません。

一種のジレンマとして、傑作だと分かっているからこそ「これが一般の人たちの手に渡るのか……隠しておきたい……」という手品人特有の独占欲もありつつ、「開封してみてあまりに想像との落差でガックリしてしまって人に見せることなく終わっちゃう子供とかいないだろうか」というおせっかい極まりない心配などをすでに始めてしまっている始末。なんなんだお前は。

僕はスマホで行うという見せ方にそこまで魅力を感じないので(こっちの方が好きな人がいるというのも分かりますけどね)、デックケースを使って演じることになりそうです。




以上が先行販売された新製品です。11月販売予定の商品は、「サイコロ大集合!」「マジカルポートレート」「THE 瞬間移動」の3点。それぞれ田中大貴さん、佐藤総さん、熊澤隆行さんの考案。ぱっと見の印象だけ書いておくと、先の2作はUFOダイスとかトミー・ワンダーのルービック・カードを連想させられ、最後の1作は「THE」と付くネーミングや道具のデザインなどいかにも往年のテンヨー商品を彷彿とさせるルックで、今からすでにあふれ出るテンヨーみによってむせ返りそうです。この3点も期待して待ちたいと思います!

カード・トゥ・ワレットや『サプライズ手帳』の話

先日(9/30)、テンヨーフェスティバルに参加してきましたTです。

ところで、みなさんは当然カード・トゥ・ワレットが好きですよね。以下、「みんなカード・トゥ・ワレットが好きだ」という前提で話を進めていきます。

カード・トゥ・ワレット用の財布なんて本来ひとつあれば十分なはずなんですが、ワレットと名の付くものであれば即座に買ってしまうような好事家には遠く及ばないながらも、僕もこの手の商品をいくつか所有しています。

挙げてみると、スーパースリム・ヒップポケット・マリカ・ワレット、ダニ・ダオルティスのマルチ・エフェクト・ワレット、テンヨー製の新ルポール・ワレット、マジック工房VAKOG製のパーフェクト・L-ワレット、マジックランド製のマジック・パスケース(Ton’s Wallet)などです。カード・トゥ・ワレット機能は備わっていませんが、テンヨー製のATMワレットなども持っています。



スーパースリム・ヒップポケット・マリカはマリカ・ワレットというものをひとつぐらい所有しておきたかったので買いました。まあ、財布と言うにはちょっとちゃちな手触りで、あまり見かけない形状なんですが、マリカのタイプにはよくあることでしょう。

マリカ・ワレットというのは、パームのいらないワレットとして有名です。カードが出現する直前まで、観客に持っておいてもらうことも可能です。独特のハンドリングによって、財布の中の独立したコンパートメント、二重の財布の中からカードが出現するものです。参考としては、故ユージン・バーガーの「グルメ」に演技と解説があります。

学祭の演技などで何度か使ったこともあるのですが、反応は上々でした。しかし、やはり見た目の怪しさから使用頻度も極端に少なく、たぶん誰かにあげてしまったと思います。記憶の限りでは、日本円のお札は入らないサイズだったと思います。



マルチ・エフェクト・ワレットは作りが独特で、ダニによる豊富なアイデアが面白い商品です。手にしてみると、これはいったい既存品とどう違うの? という印象を持ちますが、解説を見てみると、変化、出現、コンパートメントへの飛行、スイッチ、スティールなど様々な用途を可能にするため隅々までデザインが工夫されていると分かります。道具を手にしただけではその良さは分からないでしょう。これは本当に、手にしたうえで、解説動画を見てもらわないとなかなか真価を伝えにくいところがあります。
ただ、こんな財布なんて見ない、という問題は付きまといます。紙幣は折らない限り入れる部分がないので、カード&小銭入れというていで扱う必要があります。



新ルポール・ワレットはテンヨー製のディーラーズ・アイテムですから日本のお札が入ります。ルポールというのはパームしてロードしてくるタイプのひとつの完成形というか、これが最もシンプルで不思議、というような品物ではないでしょうか。カードが消え、演者は財布のジッパーから封筒(糊付けしてある)を取り出します。その封筒を破って開くと、確かにサインカードが収められています。

ロードのしにくさや扱いにくさなど気になる点はありませんし、見た目の違和感もないです。小銭を入れる部分はありません。あくまでも紙幣やカードを入れておくための部分だけで構成されています。長く使えるしっかりした簡素な道具としてお薦めできます。



パーフェクト・L-ワレットはたまに使っている人を見ます。これは演技に使っている人というよりも、マジシャンが集まるような場所で普通に財布として携帯している人を見る、ということです。
作りがしっかりしているし、国内オーダーメイド製造なので当然日本円紙幣が入ります。やや使いにくいですが小銭を入れる部分も備わっています。機能としては、パーム不要で直接的にロードして中のジッパーから取り出せるようになっている部分(カップスというよりマリカを一重にしたみたいな)と、パームからのロードでルポールとして使えるようになっている部分です。ルポールというのは主に封筒の都合から、基本的に即座に繰り返し使えるようなものでもないのですが、この商品にはきわめて簡易的なパス・ケースが付いていて、この中へ飛行したという風に見せることができます。これは数秒でリセット出来てかなり便利です。不思議さをどこまでも強調したい場合には封筒を使えばいいと思うのですが、実はこの封筒の型紙もPDFで商品に付属していたりします。

色が選べる、というところも大きいと思います。この手の商品で流通しているものはみんな決まったように黒いので、無難なのかもしれませんが、(特に女性などは)不満のある人もいるでしょう。今はまた事情が違うかもしれませんが、ちょっと前まではカラーバリエーションのあるワレットというと周囲を見渡せばこれしかありませんでした。6種類の色合いから選ぶことができ、僕は「ライトキャメル」という明るい茶色のものを持っています。また、好きなアルファベットの言葉、文字列をある範囲までならサイフの内側に刻印してもらうことが可能です。小さくはありますが。僕の持っているものに何と刻印してあるかは秘密です。
PDFの解説が詳細なのも良いです。

気に入らないところと言えば、ちょっと嵩張るというところでしょうか。ごついのですよね。あと、ルポール機能の部分はやや入り口が固くてカードを入れるのに手間取るときがあります。これは使っているうちにこなれるのかなーと思ったのですが、僕はそんなに繰り返しカード・トゥ・ワレットをやらないので(そんなやつがいくつもワレット買うな)、一向にこなれてくる気配がありません。そういうわけでAVIATORとかNOCデックなど、固めのカードが入れやすいという印象があります。

まあ、値段は仕方ないかなーという気がします。

10/07追記:いくらなんでも気付くのが遅すぎますが、複数枚のカードならロードしやすくなるという当たり前のことに今になって気づきました。当たり前すぎて「気付いた」という表現が正しいのかよくわかりませんが。



マジック・パスケースというのはマジックランド製の商品で、いま手に入るのかどうかちょっとわかりません。ネットショップで目につくところではセオマジックにおいて在庫があるようです。僕は東京に行ったときマジックランドの店舗で直接買いましたが、それが最後の一点とか言ってたような言ってなかったような。

これは財布というより名前通りパスケースとしてデザインされたもので、普通にパームしてロードするのですが、いわゆるロック機能のあるヒンバ―・ワレットとしてもデザインしてあるというものです。ヒンバ―なので普通にすり替え用の道具としても使えるのですが、これの面白いところは、ロードして出してきたパスケースを開き、カラであることを示せるという点です。おまじないなどかけてから開くと、カラだったところにカードが出現しています。


(↑参考動画。この実演では観客に一時パスケースを預けていますが、実際の道具を手にしてみるとこれはちょっと怖くてやれないかなー、と思います。演者がパスケースを持ったまま観客にカードを取り出させるところは問題なく可能です)

別売りでホルダーが用意されているのですが、このホルダーなしでロードしようとするとかなり難しいと思います。安全ピンが付いたこの専用ホルダーによって、内ポケットのない上着からでも取り出そうと思えば取り出せるようになっています。



とりあえず、後半の3点などはどれかひとつ買っておいても損はしないでしょう(その中でも特にひとつだけと言うのであれば、パームができるという前提で新ルポール・ワレットをお勧めします)。ですが、どんな道具であっても個々人にとって細かいところで気に入らない点などはあるかと思います。筆者も何だかんだでレパートリーないしペットトリックとして常時身に着けているものはありません。そもそも、多くの奇術愛好家が複数のワレットを買い比べてみたり、新製品が一定期間をおいて思い出したようにあちこちから発売されるというこの現状が、道具の進化ではなく、むしろ完璧なワレットがどこにも存在しないという事実を裏付けているように思えてなりません。手品の道具とは、あまねく「そういうもの」なのかもしれませんが。



で、ここからが本題なのですが、先日、第60回テンヨーマジックフェスティバルが開催されまして、台風の接近もあるなか参加してきました。ショーの素晴らしさなどは本題ではないので省きます(とても良かった)。その場でディーラーズ・アイテムの『サプライズ手帳』という新製品が売られており、購入しました。

これは要するに、カード・トゥ・ワレットの手帳版です。『サプライズ手帳』は、手品用ワレットに対してしばしばありうる「こんな財布見かけないよ」という不満が出ようがありません。どこからどう見てもただの手帳です。と言うより、ただの手帳です。ワレットの宣伝文句では「普段使いできる」という表現が好まれますが、その点においてはこれ以上のものはないでしょう。本当にただのシステム手帳なんで、中身のリフィルを都合に合わせてカスタマイズできます。

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(↑写真のリフィルは自分で用意したものです。カードを入れておくためのスリットがあったので、Tカードを挿してみたり。ここに通常のポーカーサイズのカードが入れられれば良かったんですが無理でした)

この種のディーラーズ・アイテムは、一度テンヨー製のものを手にすると海外の輸入品などは使えなくなるんじゃないか、とあらためて感じさせられるくらい品質が良かったし、使いやすいです。

手帳という素材の性質から、メモ帳として扱えます。つまり、何かを書きつけておく、あるいは予言を用意しておく必要性がある文脈さえ仕立てれば、自然に取り出すことができるわけです。これは極めて演技に組み込みやすい特性であると思います。もちろんワレットに予言やメモ用紙を挟んでおいても問題はないでしょう。しかし、テーブル上に無造作に放置しておきやすい品物としては、手帳のほうに軍配が上がるのではないでしょうか。考えてみると、手帳というのはフォーマル感と日常性のバランスがちょうどいい品物です。一方で財布には、心理的な面から観客の手が伸びにくいという利点はあるかもしれません。まあ、手帳を勝手に調べられるというケースも、相当ひどい観客を相手にしていない限り考えにくいのですが……。

種類としては、マリカタイプの中のほうみたいな感じで、パーム不要です。手帳というモノの性質上、ルポールのような構造は難しいのかもと思いましたが、作りようによっては無理ではなさそう。より広い客層に訴えるために、必要とされる技術レベルを下げたのかもしれません。ロードして出すという使い方が想定されていますが、逆にジッパー付きのコンパートメントに入れたカードをひそかに抜き取ってくるといった使い方もできると思います。

で、最初はちょっとジッパーの出口までの距離が短すぎるかな? という印象があり、これだと観客に引っ張り出してもらうなどの操作がしにくいかな、と思いました。ですが、この商品にはジッパーの通じる空間(ポケット)がきちんと用意されているので、途中までカードを現しておいて、あらためてこのポケットに入れ直すことによって、不思議さを補強することができると気付きました。カードをいったん入れなおす動作の理由付けとしては、片手でカードを持ったままジッパーを押し広げて中をちらっと覗かせる、という動きにかこつけて行うのが良いように思います。あと、このポケットに観客の手を入れてあらためさせることも、やろうと思えばできそうです(やらないほうが良いと思いますが)。
ただ、入口出口の距離が近いということには変わりないので、適当に扱っていると、カードを取り出すときジッパーの奥に見えてはいけないものが見えてしまう「事故」が起こりかねません。これはきちんと指で押さえながら手帳を扱えばいいだけですね。

気に入らない点と言えば、モノの品質が全体に良いためかえって気になるという感じで、困るというほどではないのですが、ジッパーが少しだけ引っかかるときがあります。こういうことには詳しくないのですが、何かしかるべきものを塗ったりすればいいのでしょうか。

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というわけで総評として、あくまでも財布という物体でなければ嫌だという方や、パームしてロードを済ませておいてから取り出してくるタイプの道具を欲されている方、観客に持たせておいても心配のない道具を必要とされている方でなければ、誰にでもお勧めできる一品だと思いました。値が張るところだけ難点かもしれませんが、数千円の使い物にならない商品をいくつか買うことに比べたら良い買い物ですし……これ以上自分の理想に近い道具を手にしたいのであれば、よく言われることですが、革細工の技術を持った人間に、オーダーメイドで作ってもらうのが一番ではないでしょうか。
 
久々に良いものを手に入れたなあという感じで、本当に気に入ったので、この商品のための手順を作ってしまいました。あくまで手帳という素材に絡めたカードマジックをしたいなと思い、すぐに連想したのがカレンダーを利用したカード奇術です。カレンダーとカードの組み合わせというのは、これはこれでひとかどの分野であり、Alex ElmsleyのFate’s Datebookなどが代表作として想像されます。僕がいじくってみたのもこの手のカレンダーが絡む手順で、まだまだ改善の余地はありますが、今後実際に試してみてブラッシュアップしていこうと思っています。

さすがに手順を書くわけにはいかないので、最後に現象だけ記録しておきます。

現象

観客2人にカードを選んでもらう。演者は、トランプがかつてカレンダーとしても使われていたことを説明し、数字とトランプと暦の不思議な関係性を見せると言う。カードには、サイン代わりに観客自身の誕生日を書いてもらう。
観客にも手伝ってもらい、1人目のカードをデックの中に混ぜこむ。演者の手帳を開くと、カレンダーには1日ごとにランダムな数字が書き込まれている。この数字について演者は、その日に生まれた人間ひとりひとりにとっての「ラッキー・ナンバー」のようなものなのだと説明する。観客の誕生日を聞いて、その日に書かれている数字を確認し、デックの同じ枚数目を確認すると観客のカードが出てくる。

2人目のカードもデックに混ぜてから、誕生日をたずねる。同じように誕生日に対応する数字からカードを取り出してみると、それは観客のカードではなくジョーカー(もしくはブランク・カード)であり、フェイスに「ジッパーをあけて」などと書いてある。
手帳の横側に付いたジッパーを開くと、2人目の観客のカードが出てくる。

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