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Roberto Giobbi『Card College Light』 雑感

こんにちはTです。ロベルト・ジョビーのCard College Lightが邦訳されたということで、早速購入。即、通して読みました。

みんな大好きジョビーおじさんが古今東西から集めた、技法を使わない(スライトレスな)手品の傑作選です。非常に特徴的な手品書で、3トリックで1セットというふうに、続けて演じることを想定したうえでいくつかのトリックをルーティンにまとめ上げて解説しています。全部で7ルーティン、合計で21トリック解説されていることになります。

この作品集についてはセルフワーキングという表現もされますが、一読して、セルフワーキングではなくスライトレスという言い方が正しいのではないかと感じました。少なくないトリックにおいて、演者が「けっこうな労働」を求められます。セルフワーキングという言葉について、公式の定義があるわけではないのですが……。

前置きはこれぐらいにして、ざっと中身の話を。




ルーティン1

T.N.T.(Neither Blind nor Silly)―― Juan Tamariz


みんな大好きスペインの狂人、もとい変人、違った怪人、奇人? いや偉人タマリッツおじさんによる、ダイナマイト級の威力を誇るカードロケーション。

タマリッツのT.N.T.って何だろうと思っていたら、読み進めてすぐ自分にとって既知のトリックであることに気付きました。僕はNeither Blind nor Stupidのタイトルで覚えていたのですが、別名があったようです。

で、これ、(僕が言うまでもありませんが)傑作です。タネは呆れるほど単純で、覚えることも少なく、手順も間違えにくい。にもかかわらず、観客から見るとすごく不思議で「追えない」。不可能性を高めるはずの手続きが、現象を達成するための手段になっている……要するにこれはアレです。いわゆる世にいう「俺が好きなやつ」。

手品を作り上げる仕事というのは、観客から見えている「表」とひそかに仕事を遂行させる「裏」を破綻なく合致させるということであると言えるでしょうが、これはまさしく表裏が美しく合致したトリックです。

あと、演者のキャラクター次第によっては非常にユーモラスな演技になります。もちろん誰もタマリッツになることはできないでしょうが……。

手順の途中で2人の観客にカードを切り交ぜてもらうのですが、たいていの本なら「観客によく混ぜさせる」とだけ書かれていそうなところ、「頭の上や背後で」混ぜさせる、という手法が紹介されています。演者にとってはどう混ぜたところで一緒ですが、観客にとっては違います。不思議さを補強するような箇所は印象を強め、記憶に残すということ……プレゼンテーションのポイントが丁寧に記述されているのが、本書全体を通した特徴と言えます。

そして、ここでシャッフルの印象を強めておくことは次のトリックへの布石にもなっています。

Intuition ―― John Kennedy

Paul Curryによる歴史的名作Out of this Worldは、ほかに例を見ないような非常に大胆な原理を用いていますが、それよりももっと大胆かつシンプルな原理によって達成されるOOTWのバリエーションです。

個人的な話になりますが、以前とある先輩がこのOOTWを演じているところを見て、こんな大胆なやり方があったのか! と強く記憶に残っていました。なので、出典を知れてよかった。ジョン・ケネディなのね。

シンプルすぎてきちんと不思議に見えるのか不安になりかねないところですが、手順全体の構成が絶妙に「実際と異なる誤った認識」を誘発するように構成されていることに加え、ここでルーティンというトリック同士の組み合わせが効いてくるわけです。前トリックからの流れでこれを見せられたらこれはやはり、手がかりさえ見当たらないほど不思議に感じられるんじゃないかと思います。

The Telephone Trick ―― William MacCaffrey

メンタル・テジナ大好き人間であれば一度はやってみたいと思うのが、協力者の助けを借りて行うテレパシー・テジナ。ですよね? フェリーニの8 1/2で主人公の少年時代の記憶が回想され、目隠しした霊媒が観客の思い描いたことを次々的中させていくシーンがありました。ああいう、何とも言えぬうさん臭さを伴う旅芸人がやってみせるような、どこか郷愁を帯びた古典テジナ感があります。うーん、やってみたい。今では一人で行うメンタリストのスタイルが確立されましたが、それでも「電話」越しの協力者に手伝ってもらうトリックは古典と現代的なスタイルの融合によって生き残ってきた、という印象があります(とは言え、演じている人を見たことないのですが……)。

ここで解説されている手法は、同種の原理のなかでは最もベーシックでシンプルなものですが、必要にして十分でしょう。「混ぜさせかた」の演出が気を遣って書かれていたのと同様、ここではカードの「選ばせかた」にけっこうな行数が割かれています。

というか、スライトレス・テジナの本と聞いて読み始めたのにこんな序盤で「クラシックフォースがオススメ!」って言われると思いませんでした。詐欺か。それともテジナの偉い人がかつて言ったとされるように「クラシックフォースもセルフワーキングのうち」なのでしょうか……(そんな言葉はない)。

ルーティン2

Thot Echo ―― Sam Schwartz


来たーーーーーーーーー!! 知る者は称揚せよ!! 知らざる者は刮目せよ!! みんな大好きソート・エコーだ!!

というわけでソート・エコー。前から気になってたんです。名前も知ってたんです。ずっと解説を読みたかった! やっと会えたね……(©辻仁成)。

最高ですね、この手品。T.N.T.とはまた違った味わいの、不可能設定をこつこつ積み立てていく推理小説を思わせるようなマニア的ロケーショントリック。演者はほぼデックに触らず、観客がすべての部分をよく混ぜる、というあたりがやはり不思議な印象を残します。「寝られなくなるやつ」です。

本書に収録されたトリックは、一部をセットしてある……というパターンが多いのですが、それだけにフォールスシャッフルと組み合わせたり、あるいは残りの部分を混ぜてみせたり、セット部分に触れないようにしつつ先に何かしらのトリックを演じたり(ディレイド)したらかなり強いだろうなーと思いました。個人的にはLazy Man’s Card Trickを前菜にジョイントしてみたい。

Royal Flush ―― Bob Hummer & Larry Jenings

みんな大好きな数理原理と言えば? ギルブレスプリンシプル? フリーカットプリンシプル? いやCATOですね(断言)。名前を知らない人は覚えて帰ってね。

僕にとってはバノンのDegree of Freedomで強く意識するようになった原理です。詐欺の啓発運動みたいですが「知らないと騙されるやつ」。ここで解説されてるのは単純な応用ですが、それでもこの原理を知らなければ相当不思議でしょう。

The Waikiki Shuffle ―― Bill Murata

みんな大好きワイキキカードロケーションです。この世にはみんな大好きなものが多いですね。まあそれはともかく名作です。詐欺の啓発運動みたいですが「知らないと(以下略

なんか書くことがテンプレ化してきました。独創的な手法によるカードロケーションであり、ほぼ、演者がデックに触れないまま、観客に背を向けたまま演じることさえ可能です。表裏のぐちゃぐちゃに混ざった状態が観客の手によって作り上げられるので、見た目としても「もはやセレクトカードは完全に埋もれてしまった」という印象が強いです。また、「忘れるといけないので……」と銘打たれたポストスクリプト、ここに紹介されているハンドリングは些細なようで、こういうのをさらっと挟むと、観客から見て「まったく追えない」手品になったりします。こういうのをさらっとできるようになりてー。ああ、subtleなテジシャンになりたい。

個人的にはこのワイキキでカードを覚えてもらったあと、Pit HartlingのMaster of the Messに移行するなどしてみたいと思いました。

ルーティン3

Fingertip Sensitivity ―― Bob Hummer


CATOを使うとこんな特殊な現象ができますよ、という例。ちょっと台詞が引っ掛かりました。これの応用手順だと思いますが、以前プロマジシャンのゆうきともさんがこの手のトリックを演じている映像を見たとき「表裏混ぜられたカードの状態を演者が感触で察知する」という現象を提示してから「観客が実は色を選り分けてしまっていたことが明らかになる」という2段構えの見せ方になっていました。先にそちらの演技に触れていたのでここで紹介されている現象の見せかたは、個人的に少々違和感があります。

いずれにせよ覚えていて損のない作品だと思います。

Muscle Reading ―― Jack McMillen

読んでみて叫びたくなりました。こんなの追えるわけねーだろ!! 無慈悲です。ぼーっと見てたら絶対に引っ掛かりますし、じっと見ててもきっと引っ掛かります。

ホァン・タマリッツとポール・カリーによって発明されたサトルティが紹介されています。観客の記憶の改竄を唆すというのは、初学者にも門戸が開かれていると自称する本としてはなかなかに「沼が深い」。

あとポストスクリプトも必読で、この辺を読んでいるとジョビーのレクチャーを受けている気分になります。常に「実演すること」を念頭に置いて解説が書かれています。演技の隅々のアドバイスまで掬い取らないと損です。このあたりの文章を読みながらやはり手品はサトルティによって築かれるのだな……と、しみじみ。

ところで「指先の感触」のあとに「筋肉を読む」。そういうのが流行りなんでしょうか。トリックそのものよりマッスル・リーディングの参考文献のほうが豊富なのは笑いました。

The Lie Detector ―― Roberto Giobbi

博覧強記の奇術研究家石田隆信氏による、どうかしているとしか思えない綿密さを誇る手品研究コラム『石田コラム』において、この嘘発見器と題されたトリックに言及した部分があり、「クリスクロスフォースしたカードを当てるだけの手順解説に4ページも使っている」というくどさに対して苦言が呈されていますが、自分はむしろ「そういうところ」、そのくどさこそがこの本の美徳ではないかと思いました。このへんは趣味でしょうが、個人的に、費やされた頁数は手品への愛だと思います。

「クリスクロスフォースするだけの手品」をルーティンのトリに持ってきてるあたり、トリックの効果に対する書き手の信頼を窺わせます。

ルーティン4

このルーティン4は「決して状態の良くない」、出先で借りたようなデックでも演じられる……という条件のもと組み立てられたそうです。面白いテーマだと思います。この本は初学者向けかマニア向けかみたいなところはあるにしても、やはり「実演」を何より念頭に置いて書かれていることには疑念の余地がないでしょう。

The Circus Card Trick――Jean Hugard & Frederick George Braue

何の本で、誰の演技で知ったのかも忘れてしまったのですが、サカー的「当てかた」の呼吸がすべてと言っても過言ではないトリック。その「呼吸」を活字で伝えることに力がそそがれています。

本書のなかには、とりわけ演出に主題の置かれた手品がいくつか掲載されています。このトリックもそのひとつ。手法は容易に別のものへ置き換えうるでしょう。ただ、ここで解説されている手法それ自体に新規性はないとしても、観客の「意識の流れ」まで気を配った解説がたまらないですね。

そして次のトリックへの布石が打たれます。「追わせない」という殺気を感じます。

The Fingerprint ―― Jean Hugard & Frederick George Braue

出ました! みんな大好き、「例の原理」! 「例の原理」を好きな人に悪い人はいないと言われることで有名なあの「例の原理」です。

解説を読みながらなんというか、反省しきりです。この手のトリックを自分が演じるような場面を省みると、手品の後輩にこれは知らないだろうとテジナ・マウントをぶちかましたいタイミングで場当たり的にそそくさと準備を始める、みたいな手品人にあるまじき段取りの悪さをいつも露呈している気がします。良くない。「即興でもこんなふうにルーティンとして組み合わせて演じると、追われにくくスマートに準備ができるんだよ」とジョビーに諭されて a.k.a. 説教されているような気になりました。

指紋と言えばヴァーノンのアレだよな、などと思い浮かべながら読んでいたら、歴史的にはこのトリックにもヴァーノンが関わっていたようです。このへんの出典も面白かった。

Magical Match ―― John Northern Hilliard

「数字を足したり引いたり云々という、心地よくない数理的な操作を伴うものは意識して避けました」と本の最初あたりに書かれていているのですが、これ……あの……。

ポストスクリプトでジョビーが「完全に習得してしまったらこの手品は事前に覚えておくことなんて何もないんだよ」と書いていらっしゃいますが、ジョビーに対する鉄壁の信頼が少し揺るがされてきました。手品解説中に「クラシックフォースぐらいできるよね?」と言われた時の不穏さみたいなものを感じます。「ほかのマジシャンに教えてもなかなかすっと理解してくれないんだよなー」とも。そりゃ……そうじゃなかろうか……。

まあややこしいのですが、ややこしいなりに不思議さがあると思います。2回目の繰り返すパートもきれいに効いているですが、1回目の、「よく考えれば不思議でも何でもないのになぜか引っ掛かっちゃう」というのは好みのテジナ・テイストで、ミラスキルなんかに通底するものを感じますね。

でもなー。やっぱり計算や記憶事項がちょっと面倒なんですよねー。計算そのものより、「一生懸命考えながら一生懸命考えていないそぶりを保つ」、というのがけっこう大変なことで……。計算結果の数を覚えたまま別の計算する、みたいなの大変だよなー。

手品の先輩で、計算や原理系(当人いわく脳を痛めつける系)手品を好んで演じられるかたがいるのですが、やはり人間には間違いがつきもので、混乱して訳分からなくなってる現場を何度か見ました。その人が最近「計算する手品は良くない」としみじみ仰っていたのが印象深い。

ところで、手品を見ていて「ひょっとして、いま何か計算しているな」とか「カードを数えているんじゃないか」と思ったらこれを妨害する方法があります。非常に簡単で、一生懸命頑張っているマジシャンの隣で「37、5、21、102、19……」と乱数を唱えるだけです。僕は以前これをやって前述の先輩に怒られました。原理系テジナに親を殺されたかたはぜひ覚えておいてください。

ルーティン5

Cards Never Lie! ―― John Cecil Wagner & Ricard Vollmer


これもカードを当てる演出がすべて、というたぐいの一作。一般の観客に非常に受けがいいのだそうです。こういうの頭の片隅に止めてさっと出せるようにしておきたいよなー。

Digital Dexterity ―― Al Baker

手品がサトルティによって成り立つ表現であるということは疑いの余地がないでしょうが、それを再確認させられたというか……このDigital Dexterityで利用されているフォースは以前から知っていたものの、個人的にあまりやってみる気にならない手法でした。動作があまりに恣意的だし疑わしく見えるんじゃないかという印象があったためです。しかしここで解説されているサトルティと台詞なら、違和感なく演技に取り込めそうです。ほんとに「ちょっとしたこと」なのですが。

Think Stop! ―― Bruce Cervon

あまり大きい声では言えないので小声で言いますが、このルーティンではデックをスイッチします。セルフワーキングとは……? いや、セルフワーキングの定義が明確に存在するわけではありませんが、やはり本書はセルフワーキングというより、スライトレスな手品をレクチャーする本なのだと思います。

で、スイッチした後に演じてみせるトリックが例えばトランプの裏模様が変わるとか、オーダーに揃う、みたいな現象であればまだ優しさが感じられるものの、こんな原理系手品を見せられた日には……慈悲はないのか? 「斬られたことにすら気付かない」ってやつでしょう。

加えてそもそもこの作品自体、「こんなの追えるわけねーだろ!!(2回目)」。手品人であれば当然知っている原理が手順をひとひねり工夫しただけで追えなくなる、という例です。だって適当に抜いたカードを適当に戻して適当に切っただけにしか見えないもんなあ。そりゃ不思議だよなあ。

このルーティン5、それぞれのトリックはともかくとして、カード当てが3連続で続くところがちょっと重いなと感じました。

ルーティン6

Card Caper ―― Roberto Giobbi


「カードを操ることと同じくらい、心理を操ることに気を配ってください。スライト・オブ・ハンドと同じくらい、スライト・オブ・マインドは重要なツールなのです。」いつかしかるべき本を著すときしかるべきタイミングで引用したい文章です。頭のなかの「いつか引用するデータベース」に仕舞っておきます。

In the Hands ―― Frank Garcia & Roberto Giobbi

だからこういうことをすると追えなくなるのでやめてください。慈悲はないんですか。観客より2歩先に進んでいるという、原理を最大限活かした手順。ここで解説されているやり方に加えて、どうにかアンネマンのサトルティなどくっつけてうまく演じられれば本当の本当に、最初から最後まで完全にずっと演者は後ろを向いていた、と錯覚させられそうな気もします。ちょっと難しいかもしれませんが。

Back to the Future ―― Al Leech & Roberto Giobbi

非常に基本的な、手品人なら誰でも知っている原理なのですが、以前とある先輩がこの原理に独自の工夫を付け加えたメンタル手順を演じていらっしゃってしたたかに引っ掛かった記憶があります。何事も演じ方しだいということでしょうか。

この解説でも、手順のどこを印象付けるのか、観客の記憶や心理にどうアプローチするのかという手練手管について詳らかに書き記されています。『カードマジック事典』の文章なら半ページで終わりそうな手順ですが、解説は5ページに渡ります。

演出にはちょっと「ん?」と思わなくもないのですが、この演じかたが絶対と言うわけじゃなく、ありがちな予言に見えない、観客の心に残るような演じかたを自分で発見してくれ、とのこと。

ルーティン7

Manto ―― Bob Hummer & Richard Vollmer


みんな大好き、ごちゃ混ぜ予言!! の元ネタ!! とにかく称えよ!! とにもかくにも、ごちゃ混ぜ予言の元ネタです(反復法)。というわけでたぶん僕が演じるならアリ・ボンゴ氏の『ごちゃ混ぜ予言』を演じるでしょうが、もしこのネタを即興で演じるなら……というケースまで想定されており、ポストスクリプトでアドバイスしてくれています。

この手順の最後に必要となる、とある手続きを今までけっこうぞんざいにやってましたが、今度からはここに書かれているハンドリングに倣うこととします。神は細部に……。

Vernon’s Miracle ―― Dai Vernon(?)

観客のカードを特定する手法それ自体は数理とすら呼べない単純なものですが、やはり手品は原理それ自体で決まるわけではない、というか。「あのプロフェッサー、ヴァーノンの手順です! ただし正確な出典は謎」だそうですが、原理をミスディレクションで大胆にカヴァーしてみせ、「このひと性格悪いのでは」と疑いたくもなるようなレッドへリングをちりばめながら、最終的にケースバイケースのマルチアウトで対応してみせるやり方はいかにもあのおっさんぽいタッチです。っぽいなー。

僕の感覚ですが、マルチアウト系もセルフワーキングと呼ぶのは抵抗あります……。

このトリック含めてちらほら、「観客が指示を間違えても問題ではない、むしろプラス」とか「混ぜてる間に観客が何枚か落とすかもね。それはそれで良い」みたいな記述が出てくるのですが、初学者向けにしては沼が深い(2回目)。観客の行動を完璧にコントロールするだけじゃなく、ちょっとだけイレギュラーなことが起こりうる余地を加減する、という手練も求められるようです。いや、それが手品道と言うものか。険しい。

That Is the Question ―― Ricard Vollmer

すぐに連想したのは名著、『奇術入門シリーズ カードマジック』で覚えた『クエスション・マーク』。あれがちょうど、この手品の簡易版に当たる感じです。あの本には出典が明記されていなかったように記憶しているのですが、これが祖先なんでしょうか(この辺はよく分かりませんが)。

つまり奇術入門シリーズのアレよりやや複雑なのですが、これにはメリットとデメリットがあって、いい点……タネが追いにくくなっているところ。不確定な要素が2つ3つ絡んでいるように感じるので、「どうして当たるのか」観客から把握しにくくなっています。悪い点……やはり、「やや複雑なところ」ですね。もちろん最低限のシンプルさは保っているのですが、演者が計算するような手続きはしなくて済む代わりに、観客に計算やカウントを求める手順になっています。小学生でもこなせるタスクとは言え、こういうのは少なければ少ないほうがいい、と感じる読者もいるでしょう。「どうしてそんな計算が求められるのか」の理由付けは、セリフの演出によってカヴァーされていますが(訳者さんによる極めて親切な注釈を確認すると)、実はこのセリフの通りではうまくいかないケースがありうるとのこと。難しいもんですね。

本書の最後に収録されたこのトリックが、『奇術入門シリーズ』のクエスション・マークより「不思議」か、「効果的」かどうかは、人によって感じかたや趣味が分かれるでしょう。まあ実演するときのことを想定したら、おそらく僕は簡単なほうを選びますかねー。あれも十分効果的な手品だからなぁー。たぶん手品の後輩に老害するときはこっち選びます。




というわけで内容について書きすぎなぐらい書いてきましたが、基本的に文中で解説されている手品はどれもこれも一級品です。一般の観客を楽しませ、手品をかじっている観客をノックアウトするような作品が並んでいます。名前の通り持ち運びやすく、それほど重量を感じさせないソフトカバーではありますが、攻撃力はかなり高い本です。人を殴り殺せます(比喩です)。僕の好みから言うとやや外れる作品などもありますが、基本的なレベルの高さを大前提にしたうえで書いただけのことで。

繰り返しになりますが、確かに優秀な原理、優秀なトリックが収録されている本であり、単にそのアウトラインだけを拾い上げていくといった読み方もできるのでしょう。しかしそれだけでは片手落ちというか非常にもったいないと思います。台詞やハンドリングやプレゼンテーションのコツについて、ジョビーのアドバイス、提案、豊富な解説が合間合間に差しはさまれており、また本を順序だって読み進めていくことで、トリックとトリックをどう組み合わせてルーティンとして形作っていくか、それがいかに相乗効果を生むかということについて自然と学び取っていけるようになっています。まさしく大学という名前にふさわしい深度をもって、「より追えなく、より不思議に、より効果的に」演じるためにはどうしたらいいのかを講義してくれています。

まあ、僕がこうやって長々と書かなくても、「訳者あとがき」に掲載される運びとなったジョビーのメッセージがすべてだと思いました。

「手順の箇条書き」からは漏れてしまうであろうこういう部分を、原書からしっかり咀嚼するのはけっこうハードルが高いだろうと思われます。特に僕のような英語弱者にとっては。ということで、日本語訳してくださった訳者のかたがたに感謝し、続編にあたるLighter、Lightestが無事に翻訳され日本の手品ファンに届けられることを心より祈る次第です。
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